いつでも微笑みを

体を壊してやりたいこともなくなってしまったから、自分が思っていることを伝えたいことをとりとめもなくかいていくよ。

【自己犠牲の精神】天使がくれた時間/吉月生【読書感想】

「私はね、新くん。人生は長さではないと思ってる。それはこの世界で生まれた天使も人間も一緒。この限りある時間の中でどう生きてたか。そして大切な人に出会い、その人の幸せのために今日まで生きて来れたなら、私はそれで十分幸せだよ」

我慢することと卑屈になること

 子供の頃よく母に「人は人自分は自分」と口酸っぱく言われました。その割にお前が字が人より下手だとか手先が不器用だ、何をするにも雑と常にできの悪いから努力しなさいと言われ続けてきました。でもそんなことはなかった。社会に出て仕事をはじめて字が綺麗だねと言われたときは目から鱗でした。

 確かに私より上手な人は沢山いますから、子供の時にまだまだ上がいるのだから上を目指しなさいというのは分かります。ですが当時の私はなにをやってもダメなんだとしか想うことが出来ませんでした。卑屈になってしまっていたのです。ですのでこんな私に出来ることは皆が嫌がることをやることくらいしかないと思っていました。人の嫌がる仕事をしたり残業して他のチームを助けたり。

 しかしそれは少しも評価には繋がりませんでした。むしろ体よく使われるばかりでした。それでも我慢し続けました。結果体が壊れました。

 自己を犠牲に一所懸命生きるのには、生きづらい世の中なのかなと感じます。それでも私はきっと同じ事を繰り返してしまうと思います。それでもいつかは報われるときが来るのではないかと心のどこかにある気持ちを捨てきれないから。

 同じような人は少なからずいると思います。

あなたの隣には寄り添ってくれる人がいますか?

ゆっくりおやすみはできてますか?

変える勇気を持ってください。変えられないならやめる勇気を持ってください。

あとは行動するだけです。

 あらすじ

 静養を理由に、祖父母が住む海辺の田舎町へ移り住んだ新。唯一の日課は、夜の海辺の散歩だけ。父親との確執、諦めた将来の夢、病気の再発。海を眺める時間だけは、この憂鬱な世界を忘れられた。
 ある夜の海辺、新はエラという女の子に出会い、惹かれていく。やがて、周囲で次々と不思議な出来事が起きるようになり……エラは、奇跡を起こす本物の“天使”だった。
「忘れないでね」
 切なく笑った天使に秘密があることを新は知る。そして、残された時間がわずかなことも――。

公式サイトより抜粋

この作品を三行でまとめると

  • とにかく美しい世界観
  • 自己を犠牲にすることとは
  • 忘却と永遠

感想

 作品タイトルにある「天使」という言葉に偽りのない、静かで美しくそして優しいお話でした。特にエラの儚さが印象的で、この物語のヒロインとしての存在感を感じました。
 この物語の軸となるのは「自己犠牲の精神」と「奇跡」とい二つのワードになるのかなと思います。

 自分より他人を一番に考えること。この物語でエラが与えられた使命だと言ってしまえばそれまでかもしれませんが、簡単にできることではありません。そこには数々の無理が重なっていたと私は思います。それを乗り越えて行けたのは主人公という存在があったからなのかと私は考えています。主人公はエラに救われましたがきっとエラも主人公に救われていたのでしょう。だからこそ物語の最後へ繋がっていけるのだと私は思いました。

 奇跡は起きないから奇跡であり物語に組み込むのは安易であると考える方もいるかと思います。こればかりは好みになるので一概に言い悪いと言うことは出来なと思いますが、この物語に関して言えば奇跡が起きることに対価が発生し、それが物語へ繋がっていくので私は特に気になりませんでした。

 印象に残っている場面は、エラとの別れのシーンです。忘れてしまう辛さ、忘れられてしまう辛さ。それぞれの悲しみがあってお互いに理解し合う。きっと二人はこの時間が永遠に止まってしまえばと思ったに違いないでしょう。それでもエラは大好きな主人公にこのままで止まって欲しくない、前を向いて歩いて欲しい。そんな想いを感じすっと涙が流れました。

 オチについては人によっては蛇足と思う方がいるかもしれません。それでも私はこの物語はあの終わり方でよかったと思います。そうすることにより一貫して綺麗なお話を貫くことが出来き、後味のよい余韻を味わうことが出来たからです。

 あなたも是非この素敵な物語を手にとって見て下さい。