いつでも微笑みを

体を壊してやりたいこともなくなってしまったから、自分が思っていることを伝えたいことをとりとめもなくかいていくよ。

【読書感想文】少女とヴァンパイア/蘇芳野かず

「俺から見れば、こんなにわかりやすいのに。不思議だ。人間は、自分に関することが一番わからないのかもしれない。俺は、お父さんがちょっと可愛く思えて、笑ってしまった。」(P140より引用)

  先日に引き続きまたしても本屋で眺めていたら「このお話絶対好きなやつだ」と思って手に取った作品がこの「少女とヴァンパイア」でした。表紙の絵がとても爽やかで印象的だったのはもちろんですが、帯に書かれていたキャッチコピー「ヴァンパイアはただただ少女の幸せを願った」にも惹かれました。インターネット通販がどれだけ普及してもこういう「出会い」を求めて足繁く本屋に通ってしまうのですよね…

 登場人物はヴァンパイア、少女ことひーちゃん、お父さん、お母さんの4人だけ。その4人皆が皆のことを大切に思っていて終始温かい気持ちに包まれて読むことが出来ました。

 主人公が悩めば他の人に励まされ、お母さんが悩めば他の人が、お父さんが悩めばまた他の人が支える。「ひとりはみんなのためにみんなはひとりのために」それはすべてひーちゃんの裏表のない屈託のない笑顔がつないだ、素敵な縁であると同時に不思議な縁なんですよね。

 物に触れることもできず、人を殺してしまうかもしれないとおびえ、自分は何も出来ず永遠の命を生きるヴァンパイア。そんな彼がひーちゃんと出会うことにより初めて人間じゃない自分にも「心」があるんだと気がつく。「愛する」という感情に気がつく。この過程が丁寧に描かれているので物語にぐいぐい引き込まれていきます。

 だからラストがああなることは誰が読んでも予想できると思います。ラストが予想できることをつまらないという人もいるかもしれません。しかしこの物語をしっかりと読み進めることが出来ていればあのラスト以外の着地点はありえないのかなと。作者がしっかりとキャラクター達の心を描けているから着地点が想像出来るのではないのかなと。最後が予想できるのはこの物語がきちんと筋の通った作品である証明なのではないかと私は思いました。

 お世辞にもあかるい話ではないです。しかし心の底から温かく、そして優しい気持ちになれるそんなお話です。多くの人に手に取ってこの気持ちを共感してもらえたら嬉しいなと思います。

 ただし電車の中で読むのは控えた方がいいかもしれません。ラストはもちろんのこと、他のシーンでも泣ける場面が多いので、突然泣き出した変な人と思われるかもしれないからです。まぁそれは私のことなんですけどね…