いつでも微笑みを

体を壊してやりたいこともなくなってしまったから、自分が思っていることを伝えたいことをとりとめもなくかいていくよ。

【読書感想文】この冬、いなくなる君へ/いぬじゅん

「パラダイムシフトというのは、『視点を変える』という意味です。どんな出来事も自分の意見だけで決めつけるより、考え方を変えたり発想の転換をしたほうがより真実に近づけます」

  買い物に行くと、買って欲しそうにしている商品に見られているような感覚になることって有りませんか。先日ふらっと駅中にある本屋さんに寄ったときにまさにその感覚になり手に取ったのが「この冬、いなくなる君へ」という作品でした。

 表紙がシンプルなんだけどとても綺麗な印象的なものだったのもあったのでしょう。普段買い物は好きだけど、購入するときは結構悩んでしまう私が、躊躇せずレジまでもっていってお会計をしていたのは、自分自身でも少し驚いてしまいました。

 そして数日たってから読みはじめるとすぐに「あ、これは私の好きなタイプのお話だ」とすぐに思いました。そうなってしまうと続きが気になってしまい、あっという間に読み終えてしまいました。

 この物語の感想を「自分の都合ではなく相手の都合も考えて行動することを実行に移したら生活が180度変わっていくお話」なんて感想を書いたら、なんてご都合主義なお話なんだろうと思いますよね。私もそんな本面白いのかなと思います。この物語が共感できるのはその後に何度も何度も試練が訪れ、時にはその試練に打ちのめされてしまいそうになることなんです。

 相手の気持ちにたって行動をし自分をもつことはスタートラインにたつという位置づけなんですよね。物語の最後に書かれたifの主人公はスタートラインにたてなかっただけではなくそのラインからどんどん後退してしまった。結果自分で選ぶことすら出来なくなってしまったわけです。

 この物語の共感できるところは「自分自身で選択したことが必ずしも正解とは限らない」と読者になげかけているところだと私は思っています。自分で選んだから成功しました~ちゃんちゃんみたいなお話ではなくて選択を失敗することだってあると物語の中で示されているんですよね。しかし選択を失敗したとしても視点を変えればそれは最悪な選択ではなかったのかもしれない。そんな考え方を読者に提案しているように感じなるほどなと感心させられました。

 なによりもこの物語がよかったなと思うところは、文章に力を感じられるところです。こういうお話って入り込めないと白けて終わってしまうなと思うのですが、物語序盤から読者をぐいぐいと引き込んでいくそのその文章はまるで大谷翔平選手の165kmのストレートを彷彿とさせる力強さ、そしてまっすぐさ実直さを感じることができます。ここまで気持ちの良いものをかける作者は素敵だなと思いました。

 人によっては展開がよめてしまうという不満があるかもしれません。しかしこの物語はそいういうところでの勝負ではない気がします。そういった深いところまでよんで欲しいと思わせてくれる作品でした。そりゃ165kmだって打たれるときは打たれますしね。